つながる 海と空と kumo-nami

自我の「わたし」は思うとおりにならないことで悩んだり苦しんだり彷徨います。本来はしあわせ~な心地よさです。それはことばで表現することが追いつかない絶対的な感覚です。なんだか生きるのが辛くて5歳の頃から一度は出家して雲水になってみたいと思っていた風変わり女子がかく気まぐれエッセイブログです。

*吉野 弘さんの詩  その2

 

吉野弘さんの詩、続きです。

    

「夕焼け」

 

(前略)

やさしい心の持主は

いつでもどこでも

われにもあらず受難者となる。

何故って

やさしい心のの持主は

他人のつらさを自分のつらさのように

感じるから。

やさしい心に責められながら

娘はどこまでゆけるだろう。

下唇を噛んで

つらい気持で

美しい夕焼けも見ないで。

吉野弘詩集 (ハルキ文庫) 」の冒頭のところですが、

なんとも共感できます。

 

   

「生命は」 

 

生命は

自分自身だけでは完結できないように

つくられているらしい

花も

めしべとおしべが揃っているだけでは

不充分で

虫や風が訪れて

めしべとおしべを仲立ちする

生命は

その中に欠如を抱き

それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分

他者の総和

しかし

互いに

欠如を満たすなどとは

知りもせず

知らされもせず

ばらまかれてる者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思うことさえも許されている間柄

そのように

世界がゆるやかに構成されているのは

なぜ?

花が咲いている

すぐ近くまで

虻の姿をした他者が

光をまとって飛んできている

私も あるとき

誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない


良寛の「花無心」を連想させるような

同じような味わいが感じられてきます。

 

「花無心招蝶」で始まる下記の漢詩の題と作者を教えてください。 花無心招蝶 蝶無心尋花 花開時蝶来... | レファレンス協同データベース

 

花無心招蝶  花は蝶を招くに心無く
蝶無心尋花  蝶は花を尋ぬるに心無し。
花開時蝶来  花開く時 蝶来たり
蝶来時花開  蝶来る時 花開く。 
吾亦不知人  吾も亦 人を知らず
人亦不知吾  人も亦 吾を知らず。
不知従帝則  知らずとも 帝則に従う。

  

ひとつ世の中にあるものがみな無心にて、

各々それぞれが他のためになされる働きがあることを

教えてくれるのが

花にとまる蝶にみてとれる様子で強く感じられます。

  

  

 

「海」 

 

海は、空に溶け入りたいという望みを

水平線で、かろうじて自制していた。

神への思慕を打ち切った恥多い人の

心の水位もこれに似ている。

なにげなく見れば

空と海は連続した一枚の青い紙で

水平線は紙の折り目にすぎないのだが。

空は 満ちたる虚。

その色が なぜ こうも美しく

海に影を落とす?

考えず 静かに いるとき

空の美しさは 海の深みに届くのに

ざわめき始めた海の

白い波頭には

もはや 映ることがない。


自然の象徴である2つの対比、空と海に対して、

作者の感じるところがよく表されていると思うのですが、

こちらのブログのタイトルと同じ「海」「空」「青」が使われていて、

深いところで共感です。 

 

 

「夕焼け」「生命は」「海」といい、

作品のすべてからなんとなく奥深い共感を感じて、

ページをめくってみると、

作者のことをなるほどと納得できた作品がありました。

  

「氷よ、氷」

 

(前略)

もう一つ

水と氷の譬えで忘れがたいのが

白隠禅師坐禅和讃』冒頭の次の言葉

衆生本来仏なり  水と氷の如くにて

水を離れて氷なく  衆生の外に仏なし>

衆生>は、迷いの世界にある者

<仏>はこの場合、悟りを得た者のことだが

水が氷になるように

衆生が仏になる可能性を指し示す

この譬えの絶妙なこと。

(後略) 

 

坐禅和讃」のことばが引用され

禅に通じておられたのであろうことが

使われていることばの折々の深いところで息づいている様子から

納得できるように思います。

 

  

吉野弘さんの作品、

しみじみと味わうになかなか深いなーと思います。

 

そして思い出したのが、

金子みすゞさんもなにかしら仏教に通じていると感じられて、

金子みすゞ童謡集 (ハルキ文庫) 」を読みはじめたところです。

いくつか有名だったり代表的なもののほかに、

どんなものなのかとても知りたくなりました。

 吉野弘さんとは趣きがちがって

ことば使いは非常に優してく平易なのですが、

仏教的な智恵が深いところで感じられる

興味深いものです。

今後のネタで登場することになるかも。